2026年5月08日

運動は糖尿病治療の柱ですが、タイミング・強度・頻度を間違えると血糖値を悪化させることがあります。ガイドラインに基づく正しい運動習慣を専門医が解説します。
「運動しているのにHbA1cが下がらない」―そんなお悩みはありませんか?
副院長(糖尿病内科)の外来で一番多く受ける質問が「どんな運動をすればいいですか?」です。そして次に多いのが「運動しているのに数値が良くならない」というご相談です。

運動療法は2型糖尿病において推奨グレードA(合意率100%)で推奨され、メタアナリシスではHbA1cが平均−0.66%改善したと報告されています(糖尿病診療ガイドライン2024)。しかし「やり方」を間違えると逆効果になることがあります。
NG習慣①|早朝の空腹時にいきなり運動する
早朝はコルチゾール(副腎皮質ホルモン)の分泌がピークで、肝臓での糖新生(体に蓄えた物質から新たに糖を作る仕組み)が活発になっています。この状態で運動するとアドレナリンやグルカゴンの分泌も加わり、血糖値がかえって上昇することがあります。朝に運動する場合は、ヨーグルトなど軽い朝食を摂ってから始めましょう。朝食をとることによる「セカンドミール効果」で昼食後の血糖上昇も抑えられます。
NG習慣②|食後にすぐ座りっぱなしにする
食後は血糖値が急上昇するタイミングです。研究では食事開始から15〜30分後に15分間の軽い運動を行うだけで、食後血糖の上昇が有意に抑えられたと報告されています。

食後15〜30分以内、遅くとも60分以内に体を動かしましょう。食後の片付けや10分のウォーキングで十分です。ちなみに、30分座りっぱなしでいるだけでも血糖値のリスクは上がります。副院長は外来で「30分座ったら3分立つだけでも違いますよ」と患者さまにお伝えしています。テレビのCM中に立ち上がる、それだけで十分です。
NG習慣③|高強度の運動ばかり行う
全力ダッシュや限界まで追い込む筋トレなどの高強度運動では、アドレナリンなどのカテコラミンが大量に分泌され、肝臓からのブドウ糖放出が促進されるため、一時的に血糖値が上がることがあります。

糖尿病の運動療法は「ややきつい」と感じる程度の中等度有酸素運動が基本です。レジスタンス運動(筋トレ)は週2〜3日で行いましょう。当院では「筋トレは1日2〜3分、YouTubeを見ながらでOKですよ」とお伝えしています。完璧を目指すより、続けられることが大切です。
NG習慣④|週末にまとめて運動する
1回の運動によるインスリン感受性の改善効果は12〜72時間で消失します。ガイドラインでは「週150分以上、3日以上にわたり、運動しない日が連続2日を超えないように」と推奨されています。ただし、最新の研究(2025年)では、週末だけの運動でもまったく運動しない人よりは糖尿病リスクが低下することが示されています。週末しか時間が取れない方も、まずはやることが大切です。そのうえで、平日にも10分のウォーキングなど短い運動を取り入れられると理想的です。
当院の副院長(糖尿病内科)は外来で「平日は3,000歩でいいので歩いてみてください。余裕が出たら6,000歩を目指しましょう」とお話ししています。3,000歩と6,000歩では血糖改善効果に差がありますが、まずは0歩を3,000歩にすることが最大の一歩です。
NG習慣⑤|水分をとらずに運動する
糖尿病の方は高血糖による浸透圧利尿で脱水になりやすい状態です。水分不足のまま運動すると血液粘度が上がり、血栓ができやすくなることで心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まります。運動の前・中・後にこまめに水か麦茶を補給してください。スポーツドリンクは糖分が多いため避けましょう。
合併症がある方は必ず主治医に相談を
以下のケースでは運動を禁止・制限する必要があります。空腹時血糖値250 mg/dL以上、または尿ケトン体中等度以上陽性の場合は運動禁止です(糖尿病治療ガイド2024-2025)。増殖網膜症がある方は、息こらえや重い物の持ち上げで眼底出血のリスクがあるため禁忌です。末梢神経障害がある方は足の傷に気づきにくいため、運動前に毎回足裏を確認し、適切な靴を着用してください。インスリンやSU薬を使用中の方は、運動中の低血糖にも注意が必要です。
ご相談はお気軽に
「運動しているのに数値が改善しない」「どんな運動が自分に合っているかわからない」という方は、お気軽にご相談ください。当院では糖尿病専門医・腎臓専門医・看護師・管理栄養士がチームとなり、お一人おひとりの合併症の状態や生活スタイルに合わせた運動療法や食事療法を提案しています。また、当院は隣接するメディカルフィットネス(グローバルビレッジ津雲台)と提携しており、2026年夏からは「運動療法処方箋」の発行も準備を進めています。厚生労働省が認定する「指定運動療法施設」で処方箋に基づく運動を行うと、施設利用料が医療費控除の対象になるケースもあります。大阪府内でもこの処方箋を発行できる医療機関はまだ限られています。運動を「治療の一環」として始めたい方はぜひご相談ください。

詳しくは糖尿病内科の診療ページもご覧ください。
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よくある質問
Q. 食前と食後、どちらに運動すべき?
食後15〜30分以内の開始が最も効果的です。空腹時はコルチゾールの影響で血糖値が上がる場合があります。
Q. 運動の効果はどのくらい持続する?
インスリン感受性の改善は12〜72時間持続します。2日以上空けないことが推奨されています。
Q. 血糖値がいくつ以上なら運動禁止?
空腹時血糖値250 mg/dL以上、または尿ケトン体中等度以上陽性の場合は運動を控え、主治医に相談してください。
【参考文献】
- 日本糖尿病学会 編・著『糖尿病診療ガイドライン2024』第4章 運動療法, 南江堂, 2024年, ISBN 978-4-524-20425-0.
- 日本糖尿病学会 編・著『糖尿病治療ガイド2024-2025』文光堂, 2024年, ISBN 978-4-8306-4796-9.
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」2024年1月策定.
【執筆者】
部坂 有紀(へさか ゆき) 吹田いろどり腎臓・糖尿病内科クリニック 副院長
※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。
※症状には個人差があり、記載内容がすべての方に当てはまるわけではありません。
※具体的な治療方針については、必ず医師の診察をお受けください。