2026年6月08日

この記事でわかること
・SGLT2阻害薬が血糖値を下げる独自の仕組み
・糖尿病がなくても腎保護効果が注目されている医学的根拠(大規模臨床試験)
・服用を始める前に知っておきたいメリットと注意点(副作用)
糖尿病の薬が腎臓に関係するの?

「糖尿病の薬を変えましょう」あるいは「糖尿病はないけれど、この薬を飲みましょう」と言われたとき、なぜその薬が必要なのか疑問に思う方は少なくありません。
実は、糖尿病と腎臓病には非常に深い関係があります。 日本透析医学会の統計調査でも、透析が必要になる原因の第1位は「糖尿病性腎症」であり、いかに早い段階から腎臓を守る対策を行うかが極めて重要です。
当院では、腎臓専門医と糖尿病専門医が在籍し、双方の専門的視点から一人ひとりに最適な治療薬をご提案しています。今回は、近年、腎臓内科の領域でも大きなパラダイムシフトを起こしている「SGLT2阻害薬」について分かりやすく解説します。

SGLT2阻害薬はどんな仕組みで血糖値を下げる?
SGLT2(エスジーエルティーツー)阻害薬は、腎臓での糖の再吸収を抑え、余分な糖を尿と一緒に体の外へ出すことで血糖値を下げる薬です。
通常、腎臓は血液をろ過した後、糖分を体に戻す(再吸収する)働きをしています。 SGLT2阻害薬はこの再吸収を一部ブロックする仕組みです。
他の血糖降下薬との違い
低血糖を起こしにくい:インスリンの分泌を直接促す薬ではないため、単剤での使用では低血糖のリスクが低いのが特徴です。
副次的なメリット:糖と一緒に水分や塩分も適度に排出されるため、体重減少や血圧低下といった変化が報告されています。
なぜ「腎臓を守る効果」が期待されている?
もともとは糖尿病の薬として登場したSGLT2阻害薬ですが、複数の大規模な臨床試験によって、「腎保護効果」があることが報告されています。
1.DAPA-CKD試験(2020年、N Engl J Med)では、慢性腎臓病(CKD)患者を対象にダパグリフロジンの効果が検証されました。 腎機能の悪化・末期腎不全・腎疾患による死亡の複合リスクが44%低減したと報告されています(ハザード比0.56)。 糖尿病のない患者さんにも有効性が示された点が注目されました。
2.EMPA-KIDNEY試験(2023年、N Engl J Med)では、6,000人以上のCKD患者を対象にエンパグリフロジンが評価されました。 CKDの進行または心血管死の複合リスクが28%低下したと報告されています(ハザード比0.72)。 参加者の半数以上は糖尿病を合併していない方でした。
これらの結果を受け、日本腎臓学会は「CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation」を公表しています。また、 日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2024」でも、糖尿病性腎症の治療薬として記載されています。
SGLT2阻害薬のメリットとデメリット
期待されるメリット
腎機能の低下を抑える効果が臨床試験で報告されている
低血糖を起こしにくい
体重減少・血圧低下の傾向が見られることがある
心不全のリスク低減も報告されている
注意が必要な点
尿路感染症・性器感染症のリスクがやや高まる
脱水を起こしやすいため、こまめな水分補給が必要
まれにケトアシドーシス(血液が酸性に傾く状態)が報告されている
腎機能が悪い(eGFRが低い)場合、血糖降下作用は弱まる
メリット・デメリットの両方を踏まえ、主治医と相談して使用を判断することが大切です。
「糖尿病がなくても使えるの?」よくある誤解
「SGLT2阻害薬は糖尿病の薬でしょう?」というご質問をいただくことがあります。たしかにもともとは糖尿病治療薬として開発されました。 しかし前述のDAPA-CKD試験やEMPA-KIDNEY試験では、糖尿病のない方にも腎保護効果が示されています。 現在、一部のSGLT2阻害薬はCKDに対する適応が承認されています。もう一つ多い誤解は「尿に糖を出すのは体に悪いのでは?」という心配です。 排出される糖の量は1日あたり約60〜80g程度とされ、体に必要なエネルギーが不足するほどではありません。 ただし、極端な糖質制限との併用は避ける必要があります。
当院ではどのように処方している?
当院(吹田市・千里中央エリア/津雲台グローバルビレッジ内)では、腎臓専門医が患者さんの現在の腎機能や尿蛋白の状況、全身状態を総合的に評価し、SGLT2阻害薬が本当に適しているかを判断しています。また、当院の特長として、採血・尿検査の結果を即日お伝えできる体制を整えています。クレアチニン・eGFRやHbA1cの数値をその日のうちに確認し、薬の選択や調整にすぐ反映できます。

「今の糖尿病や腎臓の治療薬がご自身に合っているのか確かめたい」「将来を見据えてしっかり腎臓を守りたい」とお悩みの方は、どうぞお気軽に当院へご相談ください。
よくあるご質問
Q. 服用を始めると尿の回数や量は増えますか?
A. はい、増える傾向があります。 糖が尿に排泄される際、水分も一緒に排出されるため、尿量が増える傾向があります。 とくに服用開始直後は意識的に水分を摂るようにしてください。
Q. 高齢者でも安心して服用できますか?
A. 年齢だけで判断せず、全身状態を見て慎重に決定します。ご高齢の方は脱水に注意が必要なため、主治医と相談のうえで使用します。
Q. 他の糖尿病の薬と一緒に飲んでも大丈夫ですか?
A. 多くの場合は併用可能ですが、一部組み合わせに注意が必要です。 他の血糖降下薬と組み合わせることで、より良い治療効果を期待できます。ただし、「SU薬」や「インスリン注射」と併用する場合は、低血糖のリスクが高まるため、それらの薬の減量調整が必要になります。お薬手帳をお持ちの上、必ず専門医にご相談ください。
まとめ
SGLT2阻害薬は、血糖値を下げるだけでなく、腎保護効果が期待されるとして国内外のガイドラインで注目されている薬です。 糖尿病のある方はもちろん、CKDの進行を抑えたい方にとっても選択肢の一つとなり得ます。大切なのは、ご自身の腎機能や全身状態に合った治療を専門医と一緒に選ぶことです。 気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
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【参考文献】
・Heerspink HJL, et al. Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. N Engl J Med. 2020
・The EMPA-KIDNEY Collaborative Group. Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. N Engl J Med. 2023
・日本腎臓学会「CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation」
・日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第9章 糖尿病性腎症
【執筆者】
部坂 篤(へさか あつし) 吹田いろどり腎臓・糖尿病内科クリニック 院長
※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。
※症状には個人差があり、記載内容がすべての方に当てはまるわけではありません。
※具体的な治療方針については、必ず医師の診察をお受けください。